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村橋久成との出会い
昭和27年に国鉄に入り江別駅にいたのですが、その頃の江別は小さな町で、図書館も無かった。鉄道に入って半年経つと勤務乗車証というパスが貰えたので、それで札幌に行くわけです。本が好きで、今の時計台にあった市立図書館によく行きました。32、3年頃は大学受験生の利用客が多く、席がいっぱいで、その日も座れず書架を歩いていました。その時たまたま見つけたのが『北海道史人名辞典』でした。この本で村橋久成に出会ったんです。薩摩藩士で開拓使に奉職し、かなり高い地位まで行ったが、突然辞めた。そして帰国する途中、病で死んでしまった。これは何者なんだと。
北海道というのは、薩摩閥が握っていたでしょう。そのトップにいたのが黒田清隆。黒田の部下だったら必ず出世する。黒田と札幌に来た幹部連中は、開拓使が無くなった後も、それぞれ地方の知事になっています。警視庁総監もいたし、貴族院議員になったのもいました。村橋も黒田の言うとおり「はいはい、ごもっとも」と言っていれば出世できたんですよ。それなのになぜ薩摩出身の村橋という人間が、開拓使を辞めて帰国する途中行き倒れという非業の死を遂げたのか。黒田という男は独断専横で有名でしたからね。黒田と何かあったんじゃないか、開拓行政をめぐってトラブルがあり、それが原因で開拓使を追われたんじゃないか、というのが始まりなんですよ。
いろいろ苦労して資料を探し、「国鉄北海道文学」という同人誌に昭和52年から連載したんです。
53年には読売新聞に車掌作家と書かれました。国鉄は昔から書くことが盛んで、芥川賞を取った人も、候補になった人も結構います。企業には文化をという土壌がありました。
北海道の明治は日本の明治
昭和40年頃専務車掌になり、特急・急行に乗って、たくさんの土工夫を悲惨な作業に従事させた常紋トンネルや石北トンネルを通ったりしているうちに、炭坑の閉山や農村地帯の過疎が問題になってきました。明治時代には開拓開拓でもってどんどん奥地に入植させたのに、高度成長時代になったら、いったい北海道の開拓とはなんだろうと考えさせられました。それが歴史に踏み込んだ原点でしたね。
劇団を創って自分で作品を書きましたが、ほとんど書くものといったら明治の開拓期が題材でした。北海道の明治というのは、日本の明治なんです。北海道の明治を書いたら日本の明治が書けるんですよ。北海道は、屯田兵とか囚人とか明治の転換期に本州を追われ、そして条件的には閉塞されてきた連中が開拓したわけです。彼らは転換期の被害者なんですね。そういったところに目を向けたのが始まりなんですよ。
影響
高校時代に講師できていた松井茂雄という先生がいたんですよ。当時北大のロシア文学科の助手をやっていた人です。今は無くなりましたけど、北大の正門を入ってすぐ右手が法文学部で、そこに部屋がありました。国語の担任だったので、そこによく遊びに行きました。その先生は演劇部の顧問で、私も演劇やったんです。といっても名前だけだったんですが。その先生に「田中、演劇の脚本を君が書け」といわれ、それで書き始めたわけです。指導というほどの指導は無かったんですが、アドバイスをしてくれました。小説もそうでしたね。『札幌文学』に入ったのが、昭和38年か9年頃なんですが、先生の紹介で『札幌文学』とのかかわりができた。初めて作品が載った『札幌文学』の本を持って行ったら喜んでくれて、NHKで脚本を書くことになったのも、先生がNHK勤務の教え子に「田中を面倒見てくれ」と言ってくれたからです。すごく目を掛けてくれたんですよ。やはりその先生がいたということが、大きかったですね。やっぱり人脈というのは大切ですね。
北海道の鉄道
最近では、明治から現代までの北海道の鉄道のことを書きました。北海道の鉄道というのは開拓と同時に進んだわけですよ。鉄道が無かったら開拓はここまで来なかっただろう、といったような視点もあります。
何も無いところに鉄道線路を引っ張ってそこに移住者を入れたんですからね。普通鉄道というのは、町と町を結んで荷物と人を運ぶでしょ。北海道は違うんですよね。初めに鉄道を引いて、そこに人を呼んだ開拓の最前線だったんです。
それと昔は定山渓鉄道のような私鉄の鉄道もありましたね。手稲の軽川から石狩まで走っていた軽石軌道とか、円山公園から出ていた札幌温泉軌道など、あちこちいっぱいあるんですよ。ほとんど消えちゃいましたけど、そういう誰も知らないような鉄道を、やはりきちんと北海道の歴史の中に残しておく必要がありますね。
北海道の明治をきちんと残したい
北海道の歴史というのは、ほとんどがお上が創ったもので、官製の歴史ですよね。そうじゃなくて、日の当たらない、暗い生活を送った屯田兵なり囚人なり移住者をもっと正しく掘り起こし、北海道の歴史の中に取り上げて光を当てたい。それをずっと願っています。それが私のテーマなんです。
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